フランクフルトのあしだピアノ教室では、1歳からのプレピアノ(グループレッスン)と、ピアノ個人レッスンを行っています。
ドイツへ留学してきて一番ショックだったのは、ピアノの弾き方が全然違う、ということでした。
昔の日本ではハイフィンガー奏法というものが主流で、現代は重力奏法が多く取り入れられている、という話をよく聞きます。ハイフィンガーとは、その名の通り指を高く持ち上げて鍵盤を叩くように弾く奏法で、重力奏法は指は鍵盤にのせたまま、腕の重みをコントロールして弾く奏法です。
重力奏法は脱力奏法とも呼ばれたりします。
インターネットの情報や、海外留学により、日本と海外の情報格差は狭まってきているはずですが、それでも動画にアップされている日本人のピアノの弾き方を見ると、指で弾いている人が多いように思います。レッスンでも、まず指をしっかり鍛えた上で、腕の使い方を学ぶという順序で教わっているのではないでしょうか。
「指を鍛える」とはそもそもどういうことなのかは別記事で検証するとして、指の訓練と腕の使い方を別物として習うと、重力奏法はなかなか理解できないと思います。重力奏法は、腕の動きの中に指の動きがあるからです。
指の動きを腕の動きの中でとらえる、という感覚を実感するには、まず自分の体の仕組みについて知る必要があります。
腕の重みを使うと言いますが、腕はどこから始まっているかご存じですか?
「腕」というと、胴体の外側にぶら下がっている部分と思っている人もいるかもしれませんね。でも腕の始まりは胸鎖関節といって、鎖骨を体の中心に向かってなぞっていったときに突き出た部分です。関節としては、ここだけが唯一腕と胴体の接点になっています。肩ってほぼ胸郭の上にのっかっただけの状態になっているんですね。
この胸鎖関節に指を置いて、腕を動かしてみると腕の動きに連動していることが感じられるかと思います。
腕の始点をいわゆる肩関節ととらえるか、それとも胸鎖関節ととらえるかによって、腕の使い方は大きく変わってきます。考え方の違いだけで動作が変わるのがおもしろいところです。
腕の力を抜こうとして、肩を上げ下げすることがあるかと思いますが、意識を向けるべきところは肩ではなくて胸鎖関節です。このあたりをゆるめると腕が自由になる感覚があるかと思います。
胸鎖関節に視点を向けるべきもう一つの理由は、ピアノを弾く時に猫背や巻き肩になっている人が多いからです。上半身が内側に丸まった状態になっていると胸鎖関節の可動範囲が狭まります。
鍵盤に重さをのせる、と考えると前かがみの姿勢になりがちで、実際著名ピアニストでも鍵盤の上に覆いかぶさるように弾く人もいますが、あれは上半身を開いた状態を習得したうえでのパフォーマンスだと考えてください。
猫背や巻き肩を治すにはいろいろなアプローチがありますが、まずは「みぞおちを正面に向ける」ことを意識してみてください。みぞおちをピアノに向ける、と考えてもよいでしょう。こうすると自然と胸を張った姿勢になります。胸を張って、というと肩をぐっと後ろに引く人が多いのですが、その状態では首から胸のあたりが緊張することになり、腕を自由に動かすことができません。
みぞおちを正面に向けた状態で、腕の始点は胸鎖関節、とつぶやきながらピアノを弾いてみてください。これまでと違った腕の使い方ができると思います。
重力奏法がうまく習得できない、という方はぜひ一度試してみてください。
なお、ピアノの弾き方、奏法にはトレンドがあります。重力奏法は、現代の大きなホールでピアノを弾くことを想定した時に有利な奏法として多く取り入れられていますが、数十年後には別の奏法が主流になっているかもしれません。
重力奏法が唯一の正解というわけではなく、曲に合わせていろいろな奏法を使い分けることができるようになるのが理想だと思います。そして、他にもっと自分に合ったやり方がないかどうか探し続けることも大切です。
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