フランクフルトのあしだピアノ教室では、1歳からのプレピアノとピアノの個人レッスンを行っています。
ピアノを練習する人ならいつかは出会う「トレモロ」。トレモロとは、同じ音程を高速で反復するテクニックのことです。
数回程度の反復であれば勢いで弾けてしまうのですが、延々とトレモロが続く場合、効率的に弾かないと腕が痛くなったりだるくなったりしてきます。
このトレモロをマスターする練習法はいくつかあるかと思いますが、私がやって効果があったものをご紹介したいと思います。
トレモロの動きとは
私は大学3年の時にフォーカル・ジストニアを発症しましたが、それまでトレモロは得意中の得意でした。特に何か訓練をしたというわけではなく、いつからか弾けるようになっていました。
フォーカル・ジストニアを発症してからは、トレモロだけでなく、高速で反復する動き(たとえば月光ソナタの第三楽章の9小節以降)がまったくできなくなりました。
そこからトレモロの弾き方を意識的に再構築することになりました。
トレモロはいわばでんでん太鼓のように手を肘から回転する動きになります。回転する、ということはどこかに軸が必要となります。
ピアノを弾く時は手のひらを下に向けますが、この時橈骨(手首の親指側から肘までのびる骨)が尺骨(手首の小指側から肘までのびる骨)を軸として回転します。つまりトレモロのように肘の回転を使って弾く時は、尺骨が軸になっているということです。
さらに、手の余計な緊張を取るため、親指を動かす筋肉が尺骨の肘側まで伸びていることを意識します。親指の付け根は手首のところではなく、肘の小指側にあると考えます。目に見える親指は短いですが、親指を動かす筋肉まで考えると、親指ってかなりの長さがあるんですね。
ピアノを弾く時は、前腕の中で親指と小指が交差していることを実感としてとらえられるようになるとトレモロの高速回転ができるようになるかと思います。
指のどこで鍵盤をとらえるか
さらにもう一つのポイントとして、トレモロの時に指のどこで鍵盤をとらえるか、というところに注目してみます。
トレモロは高速で反復する動きなので、指が動いて鍵盤を押すというよりも、肘からの回転に合わせて指で鍵盤をとらえるという感覚になります。
この鍵盤をとらえる場所を習得するため、テニスボールくらいの柔らかいボールを2つ用意し、落とさないように手で2個ともつかみます。その時に、手のひら全体でボールを握るのではなく、できるだけ親指と小指の指先(点)で支え、その他の指はボールに触れているだけの状態になるまで力を抜いていきます。
力を抜きすぎるとボールが落ちてしまいますので、ボールは落とさないが、握りしめているわけではない、という微妙なポイントを探します。
これができたら、ボールを持ったまま腕を下におろして、でんでん太鼓を振る要領で肘から下を回転させます。こうすると親指と小指の指先の「点」が前腕を軸として回転する感覚がつかめるかと思います。実際にはボールをつかむときに使う指の場所と、鍵盤を弾く時の指の場所は違いますが、「点でとらえる」感覚の練習だと思ってください。
これで肘の回転が速くなっても、芯でとらえた音を出せるようになります。
フォーカル・ジストニアでトレモロができない場合
以上が私がやって効果のあったトレモロの練習法です。
フォーカル・ジストニアを発症したばかりの頃は、まず鍵盤に普通に手をのせることすらできなかったので、こうした練習法をできるようになったのは症状がかなり改善されてからのことです。
もし現在フォーカル・ジストニアを発症していて、その症状の一つとしてトレモロができない場合は、トレモロの改善にだけ集中するのではなく、体と思考のリラックスから始めることをお勧めします。
回り道に思えるかもしれませんが、この経験によって体の使い方が洗練され、音楽表現も豊かになっていきます。
フォーカル・ジストニアに関しては、こちらの記事もご覧ください。
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