ピアノでフォーカル・ジストニアを発症するまで

フォーカル・ジストニアを発症するまで

皆さんは、フォーカル・ジストニアという病気をご存じですか?

スポーツの世界では、イップスという表現が用いられることが多いようです。

いずれも、ある日突然、これまで意識せずにできていた動作ができなくなってしまう病気のことです。

たとえば、長年訓練を積んできたピアニストであれば、指の動きをいちいち意識しなくても、譜面を見たりメロディーを頭の中に思い浮かべれば、指が勝手に動いて弾けるようになってきます。

歩く時に、まず足を前に出してかかとから着地して・・・と考えなくても勝手に体が動いてくれるのに似ています。

フォーカル・ジストニアを発症すると、この記憶の回路が誤った別の情報に書き換えられてしまい、たとえば指を曲げようとすると逆に指が伸びたり、という現象が起きるようになります。

本記事では、フォーカル・ジストニアを発症するまでの実体験をまとめました。

フォーカル・ジストニアを克服した方法について知りたい方は、以下の記事をご参照ください。

私の場合、フォーカル・ジストニアと思われる症状が出たのは大学3年生の春でした。

当時モーツァルトのソナタ KV281 を練習していて、レッスンへ持っていきました。この曲は右手のトリルで始まるのですが、弾こうと鍵盤に手を置いた瞬間、右手の人差し指と中指がピンと伸びてくっついてしまい、出だしのトリルが弾けないのです。

黒鍵と白鍵の長2度のトリルはもともと簡単なものではありませんが、私はむしろそれまでトリルは得意な方でしたし、この曲も子どものころから弾きなれていた曲だったので、自分でも何が起こったのかよくわかりませんでした。

先生には、「指がくっついちゃってるみたい」と笑われたのを覚えています。そして、ちゃんと指をそれぞれ動かして弾くように、と言われました。まあ、そうとしか言いようがないようですよね。

最初は一時的な不調かと思っていたのですが、しばらく様子を見ても一向に元に戻る気配はありませんでした。様子を見る、と言っても、音大に通っているので全くピアノを練習しないわけにもいかず、ピアノから離れて休息する、ということは全く思い浮かびませんでした。

右手の人差し指と中指は鍵盤に載せた瞬間にピンと伸びてくっついてしまうのですが、腕の回転を使えば弾けないことはないレベルだった、というのもかえって良くなかったのかもしれません。

そのうち、だんだんその症状の存在に自分が慣れてきて、日によって症状に差があることもわかってきました。

普通はなんとかピアノを弾くことはできていたのですが、ひどい日は簡単なドレミファソの音階すら弾けないこともありました。人差し指と中指がくっつくだけでなく、親指が人差し指の下にもぐるような形で反ってしまうこともありました。

不思議なことに、テーブルの上でピアノを弾く真似をする分には指はきちんと動くのです。しかし、その動きを鍵盤上で再現しようとすると、指がピンと伸びてしまうのです。

当然、落ち込みました。

落ち込むという言葉では足りないくらい、当時は本当に毎日苦しくて、ピアノの前で泣いてばかりいました。

そのうち、ピアノのレッスンに行っても涙が止まらなくなり、レッスンをまともに受けられない状態が続きました。指が思うように動かないことや、意に反して涙が出てきてしまうことを先生にはまったく理解してもらえず、弾けないのは練習が足りないからだと怒られ、本当に救いのない状況でした。

当時「フォーカル・ジストニア」という病名は現在ほど浸透していませんでしたし、ようやく探し当てた音楽家の体のトラブルに関する本を読んでみても、自分の症状に似たものは見つけることができませんでした。

手の指が伸びても、痛みはありません。しかし、指が伸びた状態で無理に弾くことを続けたため、右肘のあたりに慢性的な痛みを感じるようにもなってきました。

大学生の頃は、音大を出たらドイツへ留学しようと資料を取り寄せたりしていたのですが、とても入試に臨めるコンディションとは思えませんでした。

それでもドイツ生活への憧れがあったので、語学学校に通うことにしてドイツへ渡り、その後現地の大学で音楽学を専攻することになりました。そんな中、フォーカル・ジストニアという病名を知ることになります。

最近なんだかピアノが弾きづらい、思ったようなパフォーマンスができなくなってきた・・・。
そんな時は、一人で悩まず、フォーカル・ジストニア経験者に相談してみませんか?
話すだけで心の整理がついたり、今後の方向性が見えてくることもあります。
ぜひ当教室のオンライン相談をご活用ください。

私がフォーカル・ジストニアを克服した方法については、以下の記事をご参照ください。

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